「やらされる勉強」が「自分からやる勉強」に変わる瞬間に、何が起きているのか
宿題やテストにやらされているうちは、勉強は苦役のままです。それが「自分からやる」に変わる瞬間、子どもの中では何が起きているのか。高松市の学習塾クローネ学園が、学習スイッチの正体を経済学の視点も交えて解説します。
「好きなゲームは何時間でもやるのに、勉強となると、まったく手が動かない」
「宿題は、言われていやいややるだけ。自分から机に向かうことがない」
高松で子育てをするご家庭から、こうした声をよく聞きます。
同じ子どもの中に、いくらでも夢中になれることと、一分も向かいたくないことが同居している。この差は、いったい何なのでしょうか。たくさんの親子を見てきて感じるのは、勉強が好きになる子とそうでない子を分けているのは、頭の良し悪しではなく、「やらされる」が「自分からやる」に変わる回路を持っているかどうかだ、ということです。この記事では、その回路の正体を考えます。
勉強は、そもそも「外から始まる」もの
はじめに、身も蓋もない事実を一つ確認しておきます。ほとんどの勉強は、外から始まります。
宿題が出るからやる。テストがあるからやる。叱られたくないからやる。これは、悪いことではありません。世の中の学びの入り口は、たいてい外側からの働きかけです。自分から「よし、割り算をマスターしよう」と言い出す小学生は、そういません。
こうした、外側から与えられる動機を、外発的動機づけと呼びます。ごほうび、しかられないこと、点数、順位。これらはすべて外発的な力です。
一方で、「やること自体が面白いからやる」という、内側から湧く力があります。これを内発的動機づけと呼びます。好きなゲームや遊びに何時間でも向かえるのは、この内側の力が働いているからです。
問題は、この二つが別物だということではありません。外から始まった勉強が、内側の楽しさに切り替わらないまま止まってしまうこと。ここに、多くのつまずきの原因があります。
「やらされ」が「自分ごと」に変わる、4つの段階
では、外から始まった勉強は、どうやって自分のものになっていくのでしょうか。
心理学の研究では、外からの動機は、ある日突然まるごと内発に変わるのではなく、段階を追って、少しずつ自分ごとに近づいていくことが知られています。これを、身近な例で並べてみます。
| 段階 | 子どもの状態 | 心の中の声 |
|---|---|---|
| ① 言われるからやる | 叱られたくない・ごほうびのため | 「やらないと怒られるから」 |
| ② 一応やる意味は分かる | やった方が得だとは思っている | 「やっておいた方がいいらしい」 |
| ③ 自分に必要だと思える | 自分の目標とつながっている | 「これができると、あれができる」 |
| ④ やること自体が面白い | 内側から楽しくてやる | 「面白いから、もっと知りたい」 |
①から④へ、右にいくほど「自分ごと」になっていきます。①のままだと、外からの力(叱る・ごほうび)が消えた瞬間に、勉強も止まります。④まで来た子は、誰に言われなくても続けます。
大切なのは、①からいきなり④に飛ぶ必要はないということです。②や③を経由して、少しずつ重心を内側に移していけばいい。「これができると、こんな面白いことができる」と実感が持てた瞬間、子どもは③へ進みます。この一段ずつの移動こそが、学習スイッチが入るということの正体です。
学習スイッチとは、生まれつきのオン・オフではありません。外から始まった勉強を、内側の楽しさへ翻訳し返す回路のことです。この回路は、後から育てられます。
なぜ「ごほうび」は回路を壊してしまうのか
ここで、多くのご家庭が使う「ごほうび」について、もう一度考えてみます。
ごほうびは、①の段階では効きます。動き出しのきっかけにはなる。けれども、ごほうびを強くすればするほど、④への回路が育ちにくくなるという、やっかいな性質があります。
経済学や心理学では、これをアンダーマイニング効果と呼びます。外から与える強い報酬が、もともとあった「面白いからやる」という内側の意欲を、かえって打ち消してしまう現象です。ごほうびのために動くうちに、勉強そのものの面白さから、子どもの目が離れてしまうのです。
たとえば、同じ「できたね」でも、こんな違いが起きます。「10問解けたらシールをあげる」という声かけだと、シールが目的になり、早く終わらせることばかり考えるようになります。一方、「この解き方、面白いね」と、できた瞬間そのものを一緒に喜ぶと、解けたこと自体が子どもにとっての報酬になります。
前者は①で止まりやすく、後者は④へ向かいます。ごほうびが悪いというより、ごほうびだけに頼ると、内側の楽しさへ翻訳する回路が働く前に、外の力で上書きされてしまうのです。
「好きだからやる」のではなく、「やるから好きになる」
もう一つ、大事な誤解をほどいておきます。多くの人は、「好きなことなら続く、嫌いなことは続かない」と考えます。だから、「好きになるのを待とう」とする。
けれども、順番はしばしば逆です。先に少しやってみて、できるようになるから、好きになる。人の好みは、生まれつき決まっているのではなく、経験を通してあとから形づくられていく部分が大きいのです。
これは、私たちの実感とも合います。最初は気が進まなかった習い事が、少し上達したとたんに面白くなった。そういう経験は誰にでもあるはずです。計算も漢字も、同じです。「できる」が先にあり、「好き」は後からついてくる。
だから、好きになるのを待つより、小さな「できた」を先に積ませるほうが、ずっと近道です。ここに、毎日の反復が効いてきます。負担の小さい課題を、毎日少しずつ。できることが一つずつ増えていく感覚が、②や③への階段を、子どもに自分の足でのぼらせます。
「好きなことだけやらせればいい」でも、「嫌いでも無理やりやらせる」でもありません。**小さくできることから始めて、できる感覚を通じて、少しずつ好きにしていく。**その真ん中の道が、回路を育てます。
親にできるのは、翻訳を手伝うこと
この回路づくりで、親にできることは、外から強く押すことでも、放っておくことでもありません。外から来た勉強を、子どもにとっての意味へ翻訳する手伝いをすることです。
- 「なぜこれをやるの?」と聞かれたら、「これができると、こんなことが分かるよ」と、その先の面白さを見せる
- できた瞬間を、点数ではなく「解けたね、面白いね」と、中身で一緒に喜ぶ
- 負担を小さく刻み、毎日「できた」を積めるようにする
どれも派手なことではありません。けれども、この小さな翻訳の積み重ねが、①でしかなかった勉強を、②へ、③へと押し上げていきます。親は、勉強を課す監督でも、成果を待つ観客でもなく、外の言葉を、子どもの言葉に通訳するナビゲーターなのです。
クローネ学園が大切にしていること
クローネ学園では、答えをすぐに教えることをしません。自分でたどり着いたときの「分かった」という喜びこそが、外から始まった勉強を、内側の楽しさへ翻訳する一番の力だからです。
そして、その「できた」を毎日味わえるように、KRONE LABの無料ドリルは、ごほうびで釣るのではなく、小さな達成が積み重なる作りにしています。できることが一つずつ増えていく。その手応えが、やらされる勉強を、少しずつ自分の勉強に変えていきます。
まとめ
- ほとんどの勉強は外から始まる(外発的動機づけ)。問題は、内側の楽しさに切り替わらないまま止まること
- 「やらされ」から「自分ごと」へは、段階を追って少しずつ移る。いきなり④に飛ぶ必要はない
- ごほうびは動き出しには効くが、強すぎると内発への回路を壊す(アンダーマイニング効果)
- 「好きだからやる」ではなく「やってできるから好きになる」。小さな「できた」を先に積ませる
- 親の役割は、外から来た勉強を子どもの意味へ翻訳する手伝いをすること
クローネ学園では、やらされる勉強が、自分からやる勉強に変わる関わりを大切にしています。
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本記事の文章・図版の著作権はクローネ学園に帰属します。無断転載・複製・二次利用を禁じます。(執筆:横田 耕祐)
FAQ
よくある質問
子どもが宿題を「やらされている」感覚でしかやりません。どうすればよいですか?
やらされ感をゼロにしようとするより、外から始まった勉強を少しずつ「自分ごと」に近づける発想が有効です。心理学では、外から与えられた動機が、自分にとって意味のあるものへと段階的に変わっていく過程が知られています。宿題そのものをなくす必要はありません。その勉強が何の役に立つのか、できると何が楽しいのかを一緒に感じられると、同じ宿題でも受け取り方が変わっていきます。
好きなことは何時間でもやるのに、勉強だけやりません。なぜですか?
好きなことには、やること自体が楽しいという内側からの動機(内発的動機づけ)が働いています。一方で勉強は、点数や叱られないためといった外側からの動機で始まることが多く、この二つは質が違います。大切なのは、外から始まった勉強の中に「できると面白い」という内側の楽しさを見つけさせ、だんだんと自分ごとに変えていくことです。
ごほうびをやめたら、まったく勉強しなくなりました。失敗でしょうか?
失敗ではなく、よくあることです。ごほうびのような強い外からの動機は、もともとあった「面白いからやる」という気持ちを弱めてしまうことがあり、これをアンダーマイニング効果と呼びます。いきなりごほうびをなくすより、勉強そのものの中にある小さな「できた」を一緒に喜ぶことに、少しずつ重心を移していくのがおすすめです。
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